(文/硲勇)
(続き)その晩、夜中の12時頃にふと目覚めたら、ひとつのアイデアが頭に浮かんでいた。
柴田さんが影響を受けた人物のひとりに小島一郎という写真家がいる。小島一郎の晩年の作品に超ハイコントラストの鬼気迫る作品のシリーズがある。ネガのコピーを繰り返し、グレーの中間階調を敢えて切り捨てて白と黒がぱきっと分かれた版画のような表現になっている。
思いついたアイデアというのは、黒い紙に2階調に分解した写真をシルクスクリーンで刷るというものだ。シルクスクリーンは中間階調が表現できないが、黒い紙にもはっきりした白をすることができ、印刷面は少し浮き上がる効果がある。小島一郎のように敢えて中間階調を切り捨て、新たな作品として表紙に採用する。黒い紙に白インクとあえて反転させて刷ることで、白い雪が前面に出た面白い表現になるのでは。表紙は本文を表すだけではなく、表紙自体も作品の1つにしてしまう。おそらくアイキャッチとしても強烈になるだろう。
表紙は1つの写真作品として、題字や著者名は混在させずテキスト情報は本の背にすべて表記する。改めて考えてみるとオンラインでは書影の近くにはタイトルや著者が記載されているし、店舗販売でも背が見えるように陳列される場合が多い。(流通方法によってはNGだろうけれど)機能的に見ても表紙では写真と文字を共存させる必要はないだろう。ここでも音のない世界を作る。製本はドイツ装にすれば背と表紙が別個で存在するので、音のない写真世界と文字情報を分けることができる。
アイデアが冷めないうちに、柴田さんと北浦さんにLINEで案を共有しておいた。翌朝柴田さんから「これはスゴイ…」と返信があった。夜中に思いついた“スゴイ”案は、次の日に見ると大したことがないことが多いので、ほっとしたことを覚えている。笑
後日、柴田さん自身の手で2階調に現像した写真が送られてきた。「これはスゴイ…」と頭の中でつぶやいた。