(文/北浦雅子)
嵯峨谷での編集会議から数日後、まずは硲さんが青森に行くことになった。
「いきなりメールで詳しい話をするのもどうかと思う」と考えた上でのことだ。「詐欺だと思われるかもしれないですもんね」と冗談っぽく言ったけれど、「写真集出しませんか」なんていうメールが突然届いたら、普通は怪しいと思ったほうがいい。
「最初から二人で行って、もし話がまとまらなかったら虚しいですしね。まずはぼくだけで行ってきましょうか」
飛行機代もかかるし、気を遣ってくれたのだろう。私はその頃、家の事情で出張が難しかったこともあり「ではお願いします」と返信して報告を待つことにした。
「柴田さん、とてもいい人でした」
出張から戻った硲さんに話を聞いたのはその数日後だ。「詐欺だと疑われなかったですか?」と聞くと「そういう疑念は払拭できたと思います」と爽やかに言う。こんな顔立ちの詐欺師がいるわけがない、と思いつつ「よかったです」と私は答えた。
ほどなくして、柴田さんが写真のデータをweb上で共有してくれた。その作品群を見ている途中で私は胸が熱くなり、「すごい写真、もうこれは、有り金はたきましょう硲さん!(←原文ママ)」と硲さんにLINEで伝えた。するとすぐ「はい、僕も感動しました!これは間違いなく良いものができますね!(←原文ママ)」と返事が届いてわくわくする。(有り金では足りなかったが)
前向きに進めていける流れになってきたので、ある程度の仕様を固めて京都の印刷会社・サンエムカラーさんに見積もりを依頼することにした。メールでもいいのだけれど、アートブック・ディレクターの前川さんに会っていろいろ相談させてもらえるせっかくの機会だ。おかげで昨年末、久しぶりにお会いできたのだが、前川さんは道音舎が2作目を出すと思っていただろうか。地方で出版レーベルを立ち上げて、百姓一揆のように写真集を出し、力尽きて果てたと思われていたかもしれない。
年が明けて2019年1月、私たちは柴田さんに会うためにガタガタと飛ぶプロペラ機で青森空港へと向かった。その時、機上から見た白い世界を写真に撮った。