(文/硲勇)
写真集デザインのプロセスを改めて振り返ると、対話の中での「ひっかかり」をみつけるというのが自分の中でとても大切な気がする。道音舎の前作『狼煙』でいうと「おどろおどろしい」「ビターチョコレートのような」「沼」といったキーワードがいくつも頭にひっかかっていて、それらを時おり思い返しながらデザインの判断を進めていった。かっこよく言うとコンセプトメイキングなどと言うのかもしれないが、デザインの始まりはハッキリしたコンセプトというより、もっとモヤっとした中で何かのひっかかりを頼りに形を作っていくことが多いように思う。(クライアントワークでは、最終的にはコンセプトとして整理したものを説明するけれど)
『津軽再考』の場合も、初めて青森を訪れて作家の柴田祥さんに会った時の会話がいくつものひっかかりを作ってくれた。最初は造形的な魅力に魅かれて写真を見ていたけれど、それらはもう見れなくなるかもしれない景色の記録でもある。「あの小屋は次に行ったら無くなっていた」「こんな写真はもう撮れなくなってきた」といった発言を聞いたあとでは、写真を見る目が大きく変わったように思う。記録というとシリアスな響きもあるが、個人的には柴田さんのウィットに富んだ表現もお気に入りだ。造形的な美しさの中に少しシャレのきいた視点での記録が収められていて、構成を考えながら何度もニヤリとしてしまった。
北浦さんとの会話の中では「音のない世界」というのが重要なひっかかりになった。柴田さんが過去の展示で発表したテキストにも魅力を感じていたけれど、あえて写真集からは音(言葉)を排除して、最終的には表紙からも言葉を排除することに。この経緯は改めて書こうと思う……。